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第六章 そして未来へ

 

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 恭子は看護婦と映画の話をしたくて、看護婦が来るのが待ち遠しかった。目を閉じれば、今でも映画のシーンが蘇ってくる。

 ケントが斧で手を怪我した後、「俺は死ぬんだ」と言い、機長が「絶対死なせない」と言った。そのとき恭子は「自分も死ぬんだ」と言い、医院長先生が「絶対死なせない」と言われた事を思い出し、自分とケントが同じ立場であることを感じ始めた。その後自分も生きようと言う気持ちが芽生えた。

 特に好きなシーンはケントが熊に襲われ、もう駄目だと思った瞬間に、いろんな事を思い出し、いろんな事を考え、そして心に残る言葉を発したときだ。

「もし、ここで奇跡が起こり、命が助かることがあれば、今までのことは反省し、小言は一切言わない」

 この言葉は恭子の心から一生離れることはないとだろう。

 そして機長の「NEVER GIVE UP」には非情な思いが込められている事を知り、どんなことがあっても自分自身諦めてはいけないんだと感じ、絶対、生きようと思った。

 そんなことを思い出し看護婦を待っていると、看護婦がやってきた。

「検診します」

 やってきたのは豊田ひろ子ではなく、50歳くらいのベテラン婦長であった。呆気にとられた恭子は、口を開けてポカーンとしていた。

「あれ、豊田さんと違うんですか?」

「豊田さんね、体調が悪くて入院しているのよ」

「えー、何号室ですか?」

「・・」

「後で見舞いに行きます!」

「それがね、面会謝絶なのよ」

 その言葉に恭子は呆然とした。

「面会謝絶って、そんなに悪いんですか!?」

 婦長の次の言葉に恭子は更に驚いた。

「元々あなたと同じで、心臓の調子が悪いのよ」

「そんなこと一言も聞いてないです!」

 恭子は驚きの表情を隠せなかった。

「心配させないように言わなかったのだと思うよ」

 恭子は驚くと共に、あることを思い出し涙が出てきた。一時退院と言っていて、はしゃいでいたとき、自分の心臓が悪くなり、看護婦さんにマッサージして貰い、直ぐによくなったが、一時退院が中止になったときの事だ。看護婦さんは、「私を死なせない」と言ってくれたが、私は自分の気持ちを頑として曲げず、私は自分の辛さは誰にも判らないと思い、「看護婦さんには私の気持ちは判らないわよ。病気でもないのに、私の気持ち判る分けないわ」と怒ったことだ。そのとき看護婦さんも、同じく心臓を患い、苦しんでいたのに、看護婦さんの気持ちも知らずに、ひどいことを言ってしまっていたのだ。更に看護婦さんは辛さを微塵も見せず、私は周りから勇気づけられていたにも関わらず、それに甘えて、自分は死ぬと自分の考えを曲げなかった。自分の幼さを感じると共に、看護婦にも申し訳ないことをしたと思った。

 その事も謝りたかったので絶対、面会に行きたかった。

「お姉さんに会いたいので、何号室か教えてください」

 恭子は婦長に必死になって食い下がった。

「今は無理なの。よくなったら教えるわ」

 お姉さんは、そんなに酷(ひど)いのか。もし二度と会えなかったらどうしよう。そう考えると恭子の目からは涙が止まらなくなった。

 

 看護婦が病気と聞いてから、数日経つが未来は暗くなった。あけても暮れても、看護婦のことを考え、元の明るさを取り戻した恭子も、また陰に籠もった。何をしても楽しくない。せっかく映画に感動し、生きようと心に誓ったのに、生きる杖を無くしたようなものだ。恭子は居ても立っても居られなくなり、1階のコンビニに走った。そこで折り紙を買いしめ、千羽鶴を折ることを思いついた。

 折っているときは気持ちを紛らわせることが出来た。1枚折る毎に看護婦のことが思い出される。彼との仲を取り持ってくれたことには感謝している。自分には部屋一杯のバラ、彼には私からだと言って指輪をプレゼントし、仲を取り持ってくれた事。

 自分は入院生活で周りの励ましにも無視して、死ぬと言っていたのに、看護婦はまったく自分の病気のことを隠していて、辛さなど微塵も見せず、明るく振る舞っていた事。

 一枚折る事に「治って欲しい、治って欲しい」と言って、折っている。

「私、もう死ぬなんか言わない。絶対生き抜いてみせる。だからお姉さんも頑張って」

「お姉さん頑張って」

 

 涙が折り鶴の上に落ちた。

 

 恭子は朝から晩まで折っていた。そこに母が入ってきた。

「何、折っているの?」

「お姉さんが、悪いんだって。死ぬかもしれないの」

 恭子の目は潤み、涙が溢れていた。

「看護婦さん悪いの?」

「面会謝絶なんだって!」

 母も事態を飲み込んだ。

「それで何枚折ったの?」

「50枚」

「そんなんじゃ全然駄目だわ。貸しなさい」

 そう言うと母も折るのを手伝ってくれた。その日は夜遅くまで2人で鶴を折った。

「お母さん帰るから、恭子も、もうそろそろ寝なさい」

「うん」

 そう言ったものの恭子はやめることが出来ず、1人になってもまだ折り続けた。お姉さんが早く治って欲しい、その一心で必死になって折っていた。

 普通、千羽鶴を折るのは健康な人が、病人に折るものだ。病人が病人に折る千羽鶴は不思議な感じがする。

 自分の病気の事も忘れて、お姉さんのことを考え、一心不乱に千羽鶴を折っていると、いつの間にか自分が病気であることを忘れ去っていた。そして体調が良くなっていることにも気づいてなかった。

 

 来る日も来る日も恭子は鶴を折っている。しかし千には到底手が届かない。しかし、そんなことも気にも止めず、折っている。やめるのは簡単だが、やめると看護婦が死んでしまうような気がした。その方が恭子は辛かった。このまま看護婦が死んでしまえば,自分は杖を失い、真っ暗闇に放り出されるような気がした。せっかく掴んだ光を失うような気がした。だから無我夢中で、鶴を折っていた。

 寝食を忘れて、折り続けている。その間に太陽は東から昇り、西に沈み、夜になり、また太陽は昇っていた。それでも折り続けた。そのときお腹が鳴った。

「そう言えば、食事してない」

 外は真っ暗になっていた。1階の店も閉まっている時間だ。1階に行くと、残りの折り紙とカップラーメンを買った。そして病室でお湯を沸かし、その間も折り紙を折っていた。お湯をカップラーメンに注ぎ、また折りだした。ラーメンをすすりながら、折り紙を見ると結構折れている。しかし千には、まだまだ手が届かなかった。食べ終わると、また祈り始め、何時しか崩れるようにして眠ってしまっていた。

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17へつづく