|
第六章 そして未来へ
16
恭子は看護婦と映画の話をしたくて、看護婦が来るのが待ち遠しかった。目を閉じれば、今でも映画のシーンが蘇ってくる。
ケントが斧で手を怪我した後、「俺は死ぬんだ」と言い、機長が「絶対死なせない」と言った。そのとき恭子は「自分も死ぬんだ」と言い、医院長先生が「絶対死なせない」と言われた事を思い出し、自分とケントが同じ立場であることを感じ始めた。その後自分も生きようと言う気持ちが芽生えた。
特に好きなシーンはケントが熊に襲われ、もう駄目だと思った瞬間に、いろんな事を思い出し、いろんな事を考え、そして心に残る言葉を発したときだ。
「もし、ここで奇跡が起こり、命が助かることがあれば、今までのことは反省し、小言は一切言わない」
この言葉は恭子の心から一生離れることはないとだろう。
そして機長の「NEVER GIVE UP」には非情な思いが込められている事を知り、どんなことがあっても自分自身諦めてはいけないんだと感じ、絶対、生きようと思った。
そんなことを思い出し看護婦を待っていると、看護婦がやってきた。
「検診します」
やってきたのは豊田ひろ子ではなく、50歳くらいのベテラン婦長であった。呆気にとられた恭子は、口を開けてポカーンとしていた。
「あれ、豊田さんと違うんですか?」
「豊田さんね、体調が悪くて入院しているのよ」
「えー、何号室ですか?」
「・・」
「後で見舞いに行きます!」
「それがね、面会謝絶なのよ」
その言葉に恭子は呆然とした。
「面会謝絶って、そんなに悪いんですか!?」
婦長の次の言葉に恭子は更に驚いた。
「元々あなたと同じで、心臓の調子が悪いのよ」
「そんなこと一言も聞いてないです!」
恭子は驚きの表情を隠せなかった。
「心配させないように言わなかったのだと思うよ」
恭子は驚くと共に、あることを思い出し涙が出てきた。一時退院と言っていて、はしゃいでいたとき、自分の心臓が悪くなり、看護婦さんにマッサージして貰い、直ぐによくなったが、一時退院が中止になったときの事だ。看護婦さんは、「私を死なせない」と言ってくれたが、私は自分の気持ちを頑として曲げず、私は自分の辛さは誰にも判らないと思い、「看護婦さんには私の気持ちは判らないわよ。病気でもないのに、私の気持ち判る分けないわ」と怒ったことだ。そのとき看護婦さんも、同じく心臓を患い、苦しんでいたのに、看護婦さんの気持ちも知らずに、ひどいことを言ってしまっていたのだ。更に看護婦さんは辛さを微塵も見せず、私は周りから勇気づけられていたにも関わらず、それに甘えて、自分は死ぬと自分の考えを曲げなかった。自分の幼さを感じると共に、看護婦にも申し訳ないことをしたと思った。
その事も謝りたかったので絶対、面会に行きたかった。
「お姉さんに会いたいので、何号室か教えてください」
恭子は婦長に必死になって食い下がった。
「今は無理なの。よくなったら教えるわ」
お姉さんは、そんなに酷(ひど)いのか。もし二度と会えなかったらどうしよう。そう考えると恭子の目からは涙が止まらなくなった。
看護婦が病気と聞いてから、数日経つが未来は暗くなった。あけても暮れても、看護婦のことを考え、元の明るさを取り戻した恭子も、また陰に籠もった。何をしても楽しくない。せっかく映画に感動し、生きようと心に誓ったのに、生きる杖を無くしたようなものだ。恭子は居ても立っても居られなくなり、1階のコンビニに走った。そこで折り紙を買いしめ、千羽鶴を折ることを思いついた。
折っているときは気持ちを紛らわせることが出来た。1枚折る毎に看護婦のことが思い出される。彼との仲を取り持ってくれたことには感謝している。自分には部屋一杯のバラ、彼には私からだと言って指輪をプレゼントし、仲を取り持ってくれた事。
自分は入院生活で周りの励ましにも無視して、死ぬと言っていたのに、看護婦はまったく自分の病気のことを隠していて、辛さなど微塵も見せず、明るく振る舞っていた事。
一枚折る事に「治って欲しい、治って欲しい」と言って、折っている。
「私、もう死ぬなんか言わない。絶対生き抜いてみせる。だからお姉さんも頑張って」
「お姉さん頑張って」
涙が折り鶴の上に落ちた。
恭子は朝から晩まで折っていた。そこに母が入ってきた。
「何、折っているの?」
「お姉さんが、悪いんだって。死ぬかもしれないの」
恭子の目は潤み、涙が溢れていた。
「看護婦さん悪いの?」
「面会謝絶なんだって!」
母も事態を飲み込んだ。
「それで何枚折ったの?」
「50枚」
「そんなんじゃ全然駄目だわ。貸しなさい」
そう言うと母も折るのを手伝ってくれた。その日は夜遅くまで2人で鶴を折った。
「お母さん帰るから、恭子も、もうそろそろ寝なさい」
「うん」
そう言ったものの恭子はやめることが出来ず、1人になってもまだ折り続けた。お姉さんが早く治って欲しい、その一心で必死になって折っていた。
普通、千羽鶴を折るのは健康な人が、病人に折るものだ。病人が病人に折る千羽鶴は不思議な感じがする。
自分の病気の事も忘れて、お姉さんのことを考え、一心不乱に千羽鶴を折っていると、いつの間にか自分が病気であることを忘れ去っていた。そして体調が良くなっていることにも気づいてなかった。
来る日も来る日も恭子は鶴を折っている。しかし千には到底手が届かない。しかし、そんなことも気にも止めず、折っている。やめるのは簡単だが、やめると看護婦が死んでしまうような気がした。その方が恭子は辛かった。このまま看護婦が死んでしまえば,自分は杖を失い、真っ暗闇に放り出されるような気がした。せっかく掴んだ光を失うような気がした。だから無我夢中で、鶴を折っていた。
寝食を忘れて、折り続けている。その間に太陽は東から昇り、西に沈み、夜になり、また太陽は昇っていた。それでも折り続けた。そのときお腹が鳴った。
「そう言えば、食事してない」
外は真っ暗になっていた。1階の店も閉まっている時間だ。1階に行くと、残りの折り紙とカップラーメンを買った。そして病室でお湯を沸かし、その間も折り紙を折っていた。お湯をカップラーメンに注ぎ、また折りだした。ラーメンをすすりながら、折り紙を見ると結構折れている。しかし千には、まだまだ手が届かなかった。食べ終わると、また祈り始め、何時しか崩れるようにして眠ってしまっていた。
|
||
| 激安ドリンク、箱買い、まとめ買い(コーヒー、紅茶、炭酸、スポーツドリンク、ジュース、水、酢、栄養ドリンク) 1缶50〜80円くらいの激安ドリンクを始め、安い商品が多数あります。破損時の返品、代引き決算(着払い)もありますので、安心してご利用ください。休日、買い物に行く時間も省け、重い物を運ばなくても、家まで持ってきてくれるのも、嬉しいですよね。 |
||
|
17へつづく |
||