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13
雪山にセスナ機は、昔から、そこにあったような様相で、座っていた。静まりかえった外とは打って変わって、機体の中では言い争うが起こり、緊張状態が続いていた。
「俺たちをどうしようと言うんだ」
ポールは機長に怒鳴っていた。責任を感じた機長はうつむき、沈み込んでいた。
「すまない。俺が悪いんだ」
機長は静かに言った。
「これからどうするつもりなんだ!」
ロバートが同じように機長に食ってかかった。
「これからのことは、みんなで考えよう」
慰めるようにトムが割って入った。
「そんな悠長なことを言っている場合か!」
ケントも怒っていた。
「機長の責任にするな。機体が悪いんだ。整備が出来てなかったんだ」
ヘンリーが機長をかばった。しかし責任を感じていた機長はうなだれたままだ。
「それなら俺たちは、これからどうすればいいんだ。ここで死ぬのを待つのか?」
ポールがヘンリーに言い寄った。
「取り敢えず救助を待つんだ。すぐに救助に来てくれるはずだ」
ヘンリーが、そう言うと、場はひとまず落ち着いた。
「腹減った。取り敢えず飯を食わせろ」
ケントは怒りをぶつけるように機長に言った。機長は素直に機内食を取りに行き、みんなに配った。しかし機長の次の言葉に、みんな唖然とした。
「機内食は、これ一食だけです。ゆっくり味わって食べてください」
「ふざけんな。俺たちにのたれ死にしろと言うのか」
ロバートが機長の襟首を持ち、殴りかかろうとした。トーマスは慌てて喧嘩を止めた。
「争っても仕方ないだろう。普通なら、みんな死んでたんだぞ。それを機長の操縦で救ってくれたんだ。もっと感謝してもいいんじゃないのか」
「そうだ機長の操縦がなければ死んでいたはずだ。感謝してもいいくらいだ」
ヘンリーが助け船を出した。
「感謝しろだと!いっそ殺してくれてた方がましだった。何時救助に来るか判らないのを、腹を空かせて待っているよりも、あのまま墜落してたら今ごろは天国に行けてたかも知れないんだから。そしたら、こんな喧嘩もしないで済んだんだ」
ロバートは自分の考えを曲げようとはしなかった。
「こう言うところだから、みんな力を合わせ協調しないと」
トムの言った言葉に、またポールが反発した。
「何が協調だ。飯もないのに、どうやって生きていく。仮に食い物があったとしても、取り合いになり喧嘩の種になるだけだ」
「取り敢えず食事をしようよ。その後の事は、後で考えよ」
トーマスは静かに諭すように言った。
「取りあえず飯だ。最後の、飯だからよく味わって食わないとな」
トムは皮肉タップリに言った。
そしてみんなは静かに、噛みしめるようにして最後の食事を味わった。機長は依然として、うなだれたままで元気がない。
ここにいる人は機長を入れて7名だ。協調性のあるトム、ヘンリー、トーマスと、協調性の無いポール、ロバート、ケントは事ある毎に喧嘩をし、対立した。その間で、機長は責任を感じ、うなだれたままだ。全ての責任は自分にあると、思いこんでいたのだ。
食事を終えると、トムが提案し、みんなで外に出た。
「火を燃やそう。そうしたら寒さもしのげるし、気持ちも明るくなれる」
そう言って、さっきセスナ機がなぎ倒した木を取りに行った。それを薪にして火を付けた。ここでも協力しているのはトム、ヘンリー、トーマス、機長の4人のみだ。後の3人は手伝おうとしなかった。幸い雪は降ってなかったので、それほど寒くはなかったが、火に当たっているとトムの言ったとおり、明るい気持ちになれた。
7名は沈黙の中で時間を過ごした。これだけ時間を長く感じたこともなかったし、不安を感じたこともない。
「本当に救助に来てくれるのか?」
ポールがボソッと言った。雪山は静まりかえり、救助のきゅの字もないので、さすがのポールもさっきまでの勢いを失い、元気を無くしていた。
「救助は必ず来る。今日はもう寝て、明日考えよう」
機長がそう言うと、機内から全員分の寝袋を持ってきてくれた。
「今日は、ここで寝よ」
機内で座って寝るよりも、寝ころんで寝た方が楽なので、そう提案した。しかも機体の胴体部分が割れているので、真っ直ぐ座ることも出来ない。
「目が覚めた者が、薪を足そう。幸い、薪には不便がないから」
そう言うと、みんな寝袋に入った。しかし、この中で眠れる人は誰1人居なかった。みんな不安で、なかなか寝ることが出来ず、考えれば考えるほど不安は広がっていく。誰も喋る物はいず、静かに星を眺めていた。空の星は銀色に輝き、都会で見るよりも沢山の星が見えた。夜中、トム、ヘンリー、トーマスは交代で薪を足した。
薪がパチパチと言う音以外は何一つなく、辺りは静まりかえっていた。静まりかえった所に居ると不安が、どんどん広がっていく。星は街では見ることが出来ないくらい奇麗で、7名を癒してくれたのは、それだけだった。火の周辺以外は暗闇が支配し、少し恐怖を感じる。
「これからどうする?」
トムがヘンリーに言った。
「まず食料だ。周りに動物がいないか探しに行くしかない。動物は冬眠しているかもしれないが、じっとして死を待つより、ましだからな」
「そら、そうだ」
その横では機長は申し訳ない気持ちで気弱になっていた。自分を恨み、自分を情けなく思い、自分を責めていた。
「こうなったのは自分の責任だ」
ロバートが殴りかかってきたことを思い出し、怒るのは当然だと思った。
「あのとき、みんなを助けようとせず、あのまま死んでいればよかったかもしれない」
機長の脳裏は否定的な考えで固まっていた。
そして疲れたのか、いつの間にか、みんなは眠りに就いてしまっていた。
セスナ機が墜落して3日目を迎えることになった。しかし救助は来ず、機内食以来、誰も食事を口にしていない。獲物を捕りに行ったものの、獲物など居るはずもなかった。反発していた3人も力を無くし、怒る気力もなくしていた。燃える火の前で、みんな何もしようとしないでボーとしている。
「俺らは、もうすぐ死ぬんだ。死刑台に一歩一歩歩いているようなものだ」
ロバートがポツリとぼやいた。ここで機長が初めて怒った。
「諦めるな」
今まで弱気だった機長が怒鳴ったので、みんなびっくりした。
「諦めるな。駄目だと思うと、死んでしまう。しかし、生きようと思えれば、生き残れることは出来るんだ」
力強く言った。しかし反発心の強い3人は聞く耳をもたない。
「俺は誰も殺さない。救助がくるまで、犠牲者を1人もださないつもりだ」
機長の言葉に、ケントは怒った。
「死なせないだと。2日も何も食べてないんだ。食べなければ死んでしまうぞ」
「人間は1ヶ月くらい食べなくても生きていける」
機長は勇気づけるために、力強く言ったが、気持ちは伝わらなかった。
「そんな馬鹿なことがあるか!」
ケントは反発した。
「現に俺は昔、10日間の断食したことがある。しかし、この通りぴんぴんしている。2日くらいで死んだりしないだ」
機長は周りにいるみんなにも、声を大にして演説している。
「みんなの心を一つにして、救助が来る事を信じるんだ」
食べてない体で、機長は力を振り絞って演説してした。みんなを助けたい一心だ。しかしポール、ロバート、ケントの3人には伝わる事はなかった。
「NEVER GIVE UP。NEVER GIVE UP」
機長は、何度も言った。機長の演説は長々と続き、食べてないのに、元気を振り絞って喋っていることに、次第にロバート、ケントも勇気づけられ、頑張ろうという気持ちになってきた。しかしポールだけは賛同しなかった。
「食事が食べれなくても、お金が無くても、苦しくて悩んでいても、人間は希望だけは持つことが出来る。これは万人に与えられた唯一の光だ」
ロバート、ケントは寝ころんでいた体を起こし、機長の話を真剣に聞きだした。
それを見ていた恭子は涙を流しながら、心の中で「頑張れ、頑張れ」と何度も唱えた。
一通り機長の話を終えたとき、トーマスが言った。
「トムが居ないんです」
そのときみんなの表情に焦りの色が表れた。
「もうすぐ日が暮れる。そうすると探すことは困難になってくる」
機長は慌て、辺りに緊張が広まった。
「どこかで倒れているかもしれない。みんなで手分けして探そう」
みんなはお腹が空いている事も忘れて、トムを探し始める。そして30分が過ぎたとき、日が暮れ辺りは闇の世界に支配され始めた。機長の心配は増していった。
そのときだった、向こうの暗闇の中からトムが現れた。
「トムだ!」
ヘンリーが、そう叫んだとき、みんなの心には安堵の色が訪れた。トムが何かを高く掲げて、近付いてくるのが見えた。近付いてくると、それは子鹿だと判った。鹿の足を手に持ち、みんなに見えるように高く掲げていた。そのとき誰とも構わず拍手が始まり、ポール、ロバート、ケントにも笑顔が見え、拍手と共にうれし涙も出ていた。
「心配したぞ」
トーマスが言った。
「鹿を見つけたので、これは絶対にみんなに食べさせてあげようと考え、捕まえるまでは帰らないと誓ったんだ。だから、こんなに遅くなってしまったんだ。すまん、迷惑かけて」
「いいよ。ありがとう」
ポール、ロバート、ケントの3人も感動したのか泣いていて、トムに握手を求めてきた。
「早速、食べよう」
大の大人7人もいるので手際はよかった。アッという間に鹿はぶつ切りにされ、網の上に置かれていた。そしてみんなでしゃぶりついた。
「2日ぶりの食事だ」
と言いながらケントは涙を流していた。
「おいしい、おいしい。こんなに食事が美味しいと感じたのは初めてだ」
「みんな頑張ろう。救助を信じよう」
とさっきまで賛同してなかったポールが言い出した。
「旨かった」
鹿一匹は7人の胃袋に入ってしまった。腹一杯になり、みんな幸せな気持ちになり、この日の夜は、みんなの会話も明るかった。
既に墜落から1週間が経っていった。3日目に鹿を食べて以来、何も食べてない。あのとき明るくなっていた気持ちも、既に消えていた。
その日は昼間だというのに暗く、暫くするとチラホラ雪が降り出した。その雪も次第に激しさを増してきて、辺りは白くかすんできた。雪のせいで薪の火も消え、トムやヘンリーが火を付けるが、また直ぐ消える。そして寒さも増してきた。
「このままだと死人が出るぞ」
機長のその言葉に、緊張感が高まってきた。
「セスナ機に戻ろう」
機長の意見にみんな従った。そのとき誰かが叫んだ。
「ヘリだ」
みんなが足を止め、空を見上げると遠くの空をヘリが、こっちに向かって飛んでいるのが見えた。
「助かったんだ」
「助かった。死人が出なくてよかった」
ことのほか喜んだのはポール、ロバート、ケントの3人だった。3人は大声でヘリに向かって手を振り、叫んでいた。それにつられ後の4人も叫んだ。
恭子も「よかった」と胸をなで下ろした。
大声で叫んでいると、ヘリはみんなの方に向かってきた。しかし雪はどんどん激しさを増していき、大声で叫んでいる目や口の中に雪が入ってくるが、そんなことを構っている場合ではなかった。お腹が空いているのも忘れて必死に手を振った。更に雪は激しさを増し、顔や服や、振っている手にまで雪が積もってくる。辺りは白くなり、すぐ近くにいる7人の姿さへハッキリ見えなくなってきた。
近付いていたヘリも雪の隙間から、辛うじて見えるくらいだ。しかしみんなは必死で手を振り、叫んだ。所が、ヘリは次の瞬間Uターンして今通った航路を戻っていった。そのとき、みんなの手が止まり、唖然とした。
「どうして戻ったんだ。救助を呼びに言ったのか?」
ポールが言った。
「吹雪で俺たちのことが見えてなかったんだろう」
機長は冷静に言った。そう言った後、更に雪は激しく降り出し、吹雪となり、一寸先も見えなくなり、ポール、ロバート、ケントの3人はガックリとうなだれていた。
恭子の顔は喜びの表情から、強ばりの表情に変わった。まだ信じられないと言った感じで唖然としていた。しかし本当にヘリはみんなに気づかずに帰っていったことを知ったとき涙が出てきた。これから、この7人はどうやって生きていくんだ。映画と言うことを忘れて泣いていた。
「この寒さじゃ死んでしまうよ」
みんなはセスナに向かった。辺りは真っ白で、セスナも雪で埋もれていた。機体の雪を払いのけ、扉を開けた。我に返った瞬間、みんなは寒さで震えていた。機長は缶をいくつか持ってきて、それに薪を入れ、火を付けた。しかし薪を入れても、寒さはしのげなかった。
「本当にヘリは気づかなかったんだな」
ケントはボソッと言った。
「この寒さは耐えれないぞ」
トムは言い、寒さでぶるぶる震えた。その後は寒さと、空腹で誰も喋る元気が無かった。この状態で夜まで過ごすが、雪はやむ兆しを見せなかった。
「この調子だと、何時やむか判らないな」
トーマスが言った。
「俺たちを殺す気か!」
ケントは怒鳴った。みんなは、そのまま座りにくい座席に座って、眠りに就いた。そして、このことが最悪の事態を招くことになったのだ。
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14へつづく |
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