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第五章 光

 

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 恭子はこの日、映画を楽しみにしていて昼食を早目に済ませ、1時間前には劇場に足を運んでいた。エレベーターで22階に上がると、そこは静かな空間で何もない。真っ白な内装に、人は誰もいず、静まりかえっていた。そして近くにあるBホールを覗いてみた。巨大なドアを開け、扉を開けると巨大な空間がそこにはあった。中には柱が一本も無い、広い空間だ。ここも白の内装で、誰もいず静まりかえっていた。

「何するところかしら?奇麗な所ね」

 そう不思議に思い、更に廊下を進んだ。長い廊下を進むと、そこにAホールがあった。ここでも巨大な扉があったが、それは既に開いていた。

 その中に入った瞬間、恭子はハッとした。

本当の映画館だ。中には椅子が1000席くらいある巨大な劇場であり、想像以上の物を感じ、中にはチラホラ人が座っていた。しかし1時間前という事もあり、あまり人はいない。そこに恭子は新鮮な気持ちで入っていった。椅子に座っていると、子供の頃、映画館でワクワクした気持ちを思いだした。どんな映画が始まるのか想像を膨らまし、期待で胸が膨らんだ。まだ始まるまで時間があるのでトイレを済まし、外にある自動販売機でジュースを買い、中で飲んだ。次第に人は増え始め、始まる5分前には半分の席が埋まっていた。

「後、5分だ」

 恭子の興奮は止まらなくなった。1時ぴったりになると、舞台に医院長先生が上がってきた。

「いよいよ始まるんだ」

 更に恭子は興奮していた。この病院に来て興奮することが多くなった。高校生の頃に比べて、病院での生活の方が楽しいことが多いのだ。3月の時点では、病院で、こんなに楽しめるとも思ってもいなかった。

「今日は沢山の人に来て頂きありがとうございます。みなさんの中にもお気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、この22階にはAホールとBホールがあります。Aホールはここで映画を見るように造り、Bホールの方は座席が全くないので、パーティー、宴会、立食パーティーなどに使っています。果ては披露宴会場にも使えたらいいなと思って造りました」

 そのとき恭子は、ここで聡と本当に結婚できたらいいなと言う気持ちが更に強まった。チャペルで結婚式を挙げ、Bホールで披露宴をする。

「したいではなく、ここで絶対するぞ」

 そう強く思った。

「これから始まる映画は、賞を数本取ったものです。主演男優賞、脚本賞、効果音、映像などでの賞を取っています」

 映画の特徴を医院長先生が説明すると、恭子の期待もどんどん高まっていった。

「周りには看護婦も立っていますので、何かありましてもご安心下さい。それではごゆっくりご覧ください」

 医院長先生の説明が終わり、舞台から下りると、巨大なカーテンが開き、真っ白なスクリーンが姿を見せた。

「いよいよ始まるんだ」

 そう思った恭子は更に興奮していた。

 

 

 真っ白なスクリーンに映像が映し出された。セスナ機の胴体部分がスクリーン一杯に映し出され、セスナ機が飛んでいるのが判る。しかし何か違和感を感じた。何処が?と言われても判らないが、このセスナ機に何か違和感を感じる。セスナ機は左を向いて飛んでいて、左の主翼が画面の手前に向いていた。

 その違和感はカメラが引いたときに判った。暫くするとカメラが引いていき、セスナ機の全貌と、周りの景色が見えてき、真っ白な雪山の上をセスナ機が飛んでいるのが判った。雪山はロッキー山脈だ。しかしセスナ機の様子がおかしい。セスナ機がフラフラしているのだ。フラフラしているかと思うと機体は立ち直り、またフラフラし出す。よく見てみると、セスナ機の右側の主翼が真ん中から折れているのが判った。だから機体が安定せずフラフラしているのだ。それを見た恭子は不安になり、驚きを隠せなかった。主翼が折れたセスナ機がロッキー山脈よりも高い所を飛んでいるのだ。そうしていると機体は急降下した。

「危ない」

 見ている人から声が飛んだ。普通の映画館なら、こんな事はないが病院と言った閉ざされた空間なので、知り合いが多く、こういった和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気があった。

 機体は急降下したとき機長は必死の様相で、汗をかきながら機体を立て直そうとしている。機長の必死の努力で機体を立て直すことが出来た。セスナ機の乗客は6人だ。乗客の顔からは血の気が引いていた。誰も立ち上がらず、周りにある物にしがみついている。機体が立ち直ったかと思うと、また急降下。映画館の観客もセスナ機の乗客も顔からは血の気が引いていき、観客は最初のシーンで、映画に引き込まれていたのだ。

「どうなって居るんだ。俺たちを殺す気か?」

 乗客の中から罵声を浴びせかける者もいた。それでもまだセスナは左に倒れたり、右に倒れたりする。左に倒れれば恭子や映画を見ている観客も同じように首が左に倒れる。機体が右に倒れれば同じように観客の首も右に倒れる。

 機長は死を目の前にしているときのような表情をしていたが必死に機体を立て直し、何とか不時着できるポイントを探していた。

「俺は誰1人も殺さない。犠牲者を1人もださない」

 と機長は何度も心の中でつぶやいた。機長は全員を助けようとし、航路から数十キロもはずれ安全なところを探していた。そしてこれが、これから起こる事態を最悪の方向に招いた。人を助けようと思ってしたことが、不運にも最悪の事態を招くことになろうとは。そしてこれが原因で、被害を大きくすることにもなった。

 機長は林の中に不時着を決めた。機体は傾き、主翼が林をかすめ、主翼によってナイフのように切られた枝が空を飛んだ。

「危ない」

 観客の中から、また叫ぶ者がいた。それでも機長は機体を立て直した。速度をゆるめ、木々をなぎ倒しだし、セスナ機は全体重を林の木に預けた。何十本もの木々が根本から折れていき、最後は数十本の木と共に、機体は雪山に不時着した。

 木がなぎ倒されるのと同時に劇場の床も揺れた。機体の揺れが伝わってくるように、劇場の床も揺れている。すごい臨場感を感じ、観客の心臓のドキドキは更に増した。

「キャー」

 観客の叫び声が聞こえた。機体が不時着すると共に劇場の床も激しく揺れた。観客の中からざわめき声が聞こえてきた。恭子は今のは何だったのだろうと、ただならぬ不安を感じた。劇場の床が揺れるように作られているのかと思ったが、最初見たとき、そう言う風にはなってなかった。また緊張も収まらず、心臓の音はバクバク音を立て動いているのが、聞こえた。

「ただいまのは地震です。もう収まりました。引き続き映画をお楽しみください」

 と言ったアナウンスが流れた。地震だと聞いて周りはざわざわめき、恭子も緊張した。しかし映画の面白さに引き込まれ、次第に静かになっていった。

 その間、映画は中断されることなく進んでいたが、倒れた機体からは何の動きも見せなかった。周りは静まりかえっていて、真っ白な雪山に巨大なセスナが倒れ、翼は両方とも折れて、機体の真ん中が割れ、機体には無数の傷があり、周りの木は根本から投げ倒されていた。これが事故のすさまじさを物語っていた。このすさまじさとは対称的に乗客は全員無事でいた。これは奇跡と言っても過言ではなかった。

 

 画面は変わり真っ白な雪山が映ると、そこにタイトルが表示された。

「NEVER GIVE UP」

 更にその文字の中を炎が激しく燃えだした。赤と黄色の色を発しながら燃えていた。すると次の瞬間、爆発音と共に、スクリーン全体が炎に包まれ、文字も炎に包まれ、消えた。

 恭子はこれから始まる映画に対する期待感で胸が高鳴った。まだほんのプロローグしか見てないが、既に映画に引き込まれていた。これからどういう内容の映画が始まるか知らないが、この映画がこれからの彼女の人生を変える事になろうとは想像することが出来なかった。

 そして壮大なスペクタクルと感動的な物語の幕が落とされた。

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13へつづく