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 次の日3人でいつものように朝食を食べ、父を送り出した後、母と恭子は病院に行く支度をしていた。

「恭子、支度できた?行くわよ」

「うん。できたよ」

 目を輝かしながら言った。

 家から坂を上っていき15分くらい歩いたところに六甲ヒルズホスピタルはある。

 息を切らしながら坂を上り、休憩をいれながら、また上るの繰り返しだ。歩いて行くには少し不便な所だった。3月という事もあり、まだコートが手放せない。

 海風にコートをなびかせながら、寒さから身を守るためと、コートが飛ばされないために襟を両手で強く握っていた。風もやみ母は少し休憩をしようと思い、後ろを振り向いた瞬間、ハッとした。


「奇麗ね」

 今、上って来たばかりの街路樹が青々していていて、その街路樹が真っ直ぐ下に続いている。まるで樹木のトンネルを抜けてきたような感じだ。そのトンネルの中から見える坂道が長く続き、その先には海があった。恭子の居る所からだと、街並みを飛ばし、一直線上の先に海が見えたのだ。海は太陽の光に照らされてキラキラと輝いているのが、街路樹の中から覗き見えた。

「気持ちいいね」

 2人は道の真ん中に座り、樹木のトンネルと、海を眺めながら恭子が言った。

「こんなに上ってきたのね」

 今まで上ってきた急な坂を見ると恐怖を感じる。少しつまずくだけで真っ逆様に落ちそうな気持ちになり怖くなった。

「今日の夕食は何にする?」

 母が聞いた。

「恭子の好きな、お好み焼きがいい」

「わかった。今日は恭子の好きな、お好み焼きにしようね」

 母は恭子の方を見て微笑んだ。

「さあ、早く診察を済まして、恭子にも買い物手伝って貰おうかな」

「うん」

 今度は恭子が母の方を見て微笑んだ。このとき2人は、まだ甘く考えていたのだ。これからの、この物語の展開を誰が予想したであろうか。そして2人にとっての長い一日は始まったばかりだった。

「もう少しだから頑張ろうか」

 母は立ち上がり、恭子にも立ち上がるよう促(うなが)した。

 

 病院は恭子の家からでも充分見える。と言うのも総敷地面積5万平方メートルで、建物は地上22階建てだ。まるでホテル並の大きさを誇っている。

 しかし、これだけの大きさには意味があったし、医院長先生の小さい頃からの夢でもあった。読者の中には、この病院の莫大な建築費と土地をどこから出ているのか不思議に思われるかもしれないが、医院長先生の亡き父が大地主だったことや医者をしていたと言うこともあり、土地やお金には不自由がなかった。

 父を7年前に亡くし、その後夢だった病院を建設した。父を亡くした1年後には建設は始まり、赤字覚悟で莫大な予算を使い、5年の工期を終え去年この病院は完成した。そして、この病院は数十年先にユートピアと世間で言われるようになる。今は10階以上は使われていないが、これにも理由があった。これも後ほどで説明したいと思う。


 建物は白く、丸みのある曲線を見せ、ホテルのような様相を呈して誇らしげに建っている。

 2人が近付くに連れ、その巨大さを実感する事になる。近付くに連れ、迫ってくるような勢いがし、首を90度まで上げないと最上階を見ることが出来ない。ここの建物を知らない人はおろか、知っている人までもがホテルと勘違いするのも当然だ。しかもホテルと間違えるのは外観だけではなかった。


 

 病院は小高い丘に建っていた。丘を切り開いて建てたのだ。2人は息を切らしながら東側のゲートに足を向けた。正面玄関は車2台は通れそうな広いアーチ状のゲートになっている。

 そのアーチにバラのツルを絡ませていて、白く咲いた花が2人を迎えてくれていた。白い花は清潔感を感じ病院の清潔感が感じられるし、新たな気持ちでゲートをくぐろうと言った真っ白な気持ちにもさせてくれる。ゲートをくぐると大きな庭になっているが、庭の北側は200台は停まれる駐車スペースとなっている。


 2人はバラのゲートをくぐった瞬間ハッとした。病院の正面玄関までは50m程あるが、その庭は緑で覆い尽くされていた。庭の周囲はブルーへブン、ゴールドクレスト、コノテガシワ、グロボーサ、ラインゴールド、エメラウドと言った低木が無数に敷き詰められている。

 庭の中程には直径3メートルほどはあり、周囲を煉瓦で積み重ね腰くらいの高さまである花壇が所々に配置されていて、その中にも低木の緑で覆い尽くされていた。病院までのアプローチは緑の煉瓦が敷き詰められていて、芝生のように見え、イングリッシュガーデンのようになっている。


 辺り一面緑で、それぞれの緑が元気いっぱいに咲き誇っていた。それを見るだけで癒され、元気が出てくる。立ち止まり深呼吸してみたい気持ちにかられた2人は深呼吸をした。

「気持ちいいね。エネルギーを吸い込んでいるような気になる」

「ストレスなんか吹っ飛んでしまったよ。ここにいると嫌なことは全て忘れられそう」

 恭子は少し歩いては立ち止まり、植物を観察し、匂いをかいだり、子供のようにはしゃいだりした。母はそれを見ながら後ろから黙ってついてきた。

「小径があるよ。これはミント。これはタイムよ」

 と言いながらミントの葉を手で揉み、その手を鼻に持っていき、深呼吸すると爽快感が体一杯に入ってきた。鼻から吸い込んだミントの爽快感は肺を通り、肺一杯に吸い込まれた。

 ミント、タイムと言ったハーブやラミウム、リュウノヒゲ、コニファー、キリンソウなどが地面を這っていた。小径を進むと、その先にはパーゴラと言った木製の休憩するスペースがあった。そこでまた深呼吸し樹木のエネルギーを胸一杯に吸い込んだ。

 そして自分が脇道にそれたことに気づいた。普通なら正面玄関まで2−3分なのに、20分ほど寄り道をしていた。


「あ、ごめんなさい。あまりに奇麗なので見とれちゃった」

 2人は正面玄関に向かって歩き出したが、恭子は正面玄関の前で立ち止まった。

「どうしたの?」

「もう一度深呼吸していい?」

 母の返事を待たず恭子は深呼吸していた。名残惜しそうな恭子を見て母は、

「帰りまた見ればいいじゃない」

「そうね」

 と目を輝かしながら正面玄関の自動ドアを開けた。正面玄関を入った瞬間、またハッとして足が止まってしまった。

 正面玄関を抜けると中はホテルのロビーのような様相を呈していた。左側はフロントのような格好をした物があるが、人はいない。正面に太い大理石の柱が数本立っていて、天井からダウンライトの照明が温かい明かりを灯していた。床はふかふかの絨毯がひかれていて、恭子だけではなく母までもがあまりの美しさに驚愕していた。

 巨大な建物、ゲート、庭、ホールと立て続けに驚かされた事での驚愕もある。本当にここが病院なのか?もしかしたら間違えたのではないかと錯覚に陥る事も何度かあった。


 お互いに我に返り、止めていた足を動かし始めた。1歩歩くと絨毯に足が沈み何とも言えない気持ちよさで、高級感を味わうことになる。また1歩と感触を楽しみながら進んで行く。

 辺りを見渡すと、おしゃれなレストランや、おしゃれな喫茶店が立ち並んでいた。パスタの店、フランス料理の店、日本料理の店といろいろな店があるが、食事は全て塩分が控えられている。塩分が控えられていると言っても昔のような病院食ではなく、塩の変わりに、だしを濃くするなどの工夫がなされ、塩分が少ないことを全く感じさせられないように作られいる。一流のコックを取りそろえているので料理は抜群に美味しい。だから病人でない人もよく食べに来ていて昼食時などは満員で座れないくらいだ。


 そこで2人は足を止めた。ナースステーション、診察室などと言ったたぐいのものが見あたらないことに気づいた。

「本当にここ病院なの?」

 恭子が疑問に思った。

「もしかして間違えたのかもしれないね?」

 母は帰ろうとしたが、その事に気づかない恭子はすたすたと歩き出した。正面や左側はレストランや喫茶店があるが、右側は何もなく、そこに扉があることに気づいた。

「お母さん、あそこ」

 帰ろうとしていた母は足を止めて、2人で右側の扉の方に向かった。

 扉を開けるとホールの静けさとは対照的に大勢の人がソファーに腰をかけていた。そこが待合室だった。そして更に進めばナースステーション、その両脇に診察室らしき部屋がある。母はナースステーションで保健所を見せると、ソファーに腰をかけた。

 待合室も同じように、ふかふかの絨毯と、ダウンライトがあり、ナースステーションの土台部分は大理石で出来ていた。恭子はソファーに深く腰掛けた。

「落ち着く所ね」

 恭子は嬉しそうに話した。

 

 待つこと数十分。

「神宮恭子様、お入りください」

 2人は診察室に通された。

 

 診察室に入ると、奥に医院長先生が座っていた。先生の名前は三浦竜一。40歳くらいで、細身だが、やり手と言った感じのオーラを漂わせている。細身に白衣が似合い、そこから仕事が出来ると言ったイメージを与えた。

 一通り検査と質問をすると、レントゲン室に連れて行かれた。レントゲンを撮り終えると、医院長先生は深刻そうな顔をし診察室に戻ってきた。その顔に母は嫌な予感を隠せなかった。その後2人は待合室で待つように言われ、暫くすると母だけ診察室に呼ばれた。母だけが呼ばれたと言うことに、恭子も母も不安な表情に変わった。母は恭子の不安そうな顔に気づき、笑顔に戻り、肩をぽんと叩き、

「大丈夫よ。心配しないで」

 と安心させようとした。恭子は母を一瞥したが、また直ぐ下を向いた。

 母も不安は隠せず不安な顔で診察室に入ると医院長先生は神妙な顔でレントゲン写真を見ていた。心臓のレントゲン写真を見ながら医院長先生は立ち上がった。

「これをみてください。心筋が普通の人に比べて厚くなっているんです」

 治子はレントゲンを見てもよくわからなかった。

「どういうことなんですか?」

「心筋が肥大して、ポンプ機能が低下しているんです」

 医院長先生は、あっさり言った。

「低下するとどうなるんですか?」

「動悸、息切れ、胸痛などの症状が起きます」

 それは恭子の様子からも、うかがえた。

「まだ病気の原因はよく分かっていないのです」

 医院長先生はレントゲン写真を見ながら言い、治子の不安は更に高まった。病気の原因がわからないのに、治るのか不安になってきたのだ。

「治るのですか?」

「心臓を移植すると直ります。しかし順番を待っている人は沢山いるので、今すぐにと言うわけには行きません。それに日本では、あまり心臓の移植手術を行っていないのです」

 治子の不安はどんどん高まっていき、泣きそうな気持ちを抑えていた。

「移植しなかったら死ぬんですか?」

「死ぬとは限りません。治療で治る人もいます」

 その言葉に治子の不安は少し落ち着いたが、次の言葉で不安はピークに達し、顔から血の気が引いた。

「しかし突然死が起こる可能性があります」

「突然死?」

 治子の顔は蒼白になり、「突然死」の言葉が頭から離れなかった。今まで一緒に暮らしていた娘が、もうすぐ死ぬかもしれないのだ。それも何時死ぬか判らない。そんなこと今まで考えたこともないし、信じることが出来ない。そう考えていると、治子は涙で目が潤み始め、次の質問が出てこなかった。医院長先生は慌てて否定した。

「必ずしも突然死が起こるとも限りません。私たちも最善の努力を尽くして娘さんを助けます」

 医院長先生は少しでも不安を取り除こうとしていったが、その言葉で治子の不安が晴れることもなかった。突然死の言葉のみが心にぐさっと刺さり、涙が止まらなかった。恭子にどう伝えたらいいのか悩んだ。自分の口からは言えない。

「とりあえず入院して様子を見ましょう。その間、私どもも最善を尽くします」

 治子の不安をぬぐい去れないまま、医院長先生は更に言葉を繋いだ。

「塩分、アルコール、運動は控えてください。しかし過度の制限は逆効果ですので、ほどほどにしてください」

 治子は慌てて涙をハンカチでぬぐったが、不安な表情までぬぐい去ることは出来なかった。その不安そうな顔をして診察室を出てくる母を恭子は見ていた。

「先生なんて言ってたの?」

 母は恭子の質問に答えることが出来なかった。

「行きましょ」

 恭子は母の後をついて行きながらしつこく聞いてくる。

「どこに行くの?病気なの?」

 母は無言で病院の奥へ進んでいった。その事に恭子は何か大変な病気ではないかと感じ始め、母が答えてくれないことにいらつき始めた。

「なんて病気なの?」

 段々怒った口調になり、ひつこく食い下がってくる。母は泣きたい気持ちを抑えるのに必死だった。そんな気持ちを恭子は察することが出来なかった。

「お母さん教えて。なんて病気なの?」

 周りを気にせず怒った口調で、大きい声になり、ひつこく食い下がった。

「今日から入院するから」

 母はぼそっと言った。その言葉に恭子は驚愕した。顔からは血の気が引き、全身の力が抜け、立ちつくしてしまった。恭子は、その言葉が信じられなかった。母が先に歩いているのに、立ちつくしたまんまだ。そんなときに助け船を出すかのように看護婦が近付いてきた。

「ご案内します」

 と可愛く言った。彼女が着ていた白衣は、白に少しピンクの混ざったワンピースで、大きな可愛い襟があり、襟元からスカートの下までボタンが一列に続いていて、スカート部分には大きなポケットが左右に1つづつついていた。三分袖からは細い腕が覗き、ウエストは緩めにくびれがついていて、スカートの丈は膝の少し上までで、膝がスカートから覗いていた。身長は160cmとそれなりにあるが肩、胸、ウエスト、お尻と全体的に細く、白衣の上からでも彼女のウエストが締まっている事がわかった。

 恭子はこの看護婦を見た瞬間、何か輝いているものを感じ、彼女の所まで駆け寄った。看護婦は1階中程にあるエレベーターまで笑顔で案内してくれた。その後を恭子と母は素直についていった。彼女はエレベーターガールのように扉の前に立ち9階のボタンを押した。エレベーターは少しの揺れもなく、静かに9階に向かって上っていった。

 その間、沈黙が続き、恭子は看護婦に見とれていた。ショートヘヤーで眉は円を描いたように丸く、目はパッチリしていて、鼻はすっと筋が通っている。パッチリした目、優しい感じのする性格など恭子と似ているように思える。違う所と言えば恭子は幼さを感じるが、看護婦はおしとやかな大人の女性と言った感じがする。身長は看護婦が160cmで恭子は155cm。違うところはあるにせよ2人は姉妹のようによく似ていた。

 9階につくと看護婦の後に続き、廊下を歩いた。廊下、壁、天井も、やはりホテルのような美しさと静かさを感じさせる造りになっている。このとき2人は勘違いを仕始めていた。庭、ホール、そして9階を歩いていると病院と言うことをすっかり忘れてしまい、ホテルに来たのだと錯覚していたのだ。ホテルと違っていたのはどの部屋のドアも巨大である事だ。これは何かあったときに、ベットごと移動できるようにしているためだ。しかし巨大なドアを見ていると、2人は狭く、小さくなってきている心が澄みわたっていくような感じがしていた。看護婦が部屋の前で立ち止まり、大きいドアを開けた。女の人が軽くふれるだけで開くくらい簡単に開いた。その中に2人を案内した。

 2人は部屋の中に入った瞬間、またハッとした。入り口を入り、廊下沿いにバス、トイレ、ミニキッチンがあり、更に進むと小さい机、椅子,TVが置いてある。その奥は広々とした部屋に少し大きめのベットが2台置いてあり、部屋の中は高級ホテルなみの広さと奇麗さである。こういったホテルに泊まるとしたら1人2−3万はするだろう。そこで母は初めて我に返る。

「個室ですか?」

「うちは300室ある部屋全て個室になっています」

 母がお金のことで心配していると、看護婦は慌てて否定するように言った。

「心配はいりません。特に個室の料金は頂いておりませんので」

 とニコッと微笑み、丸い眉毛がより一層丸くなった。

「どうしてベットが2台あるのですか?」

「これはお連れの人がいつでも泊まれるようにと言った医院長先生の配慮です。いつでも家族の人などが病人の世話をしてあげれるように2台置いてあるのです」

「このベット普通より大きいのでは?」

 恭子が疑問を率直に質問した。

「患者さんに広い気持ちになってもらいストレスと不安を取り除いて貰い、気持ちから病気を治して貰うために大きいベット、広い部屋にしているのです」

 更に看護婦は言葉を繋いだ。

「大部屋で病人に囲まれていると、暗い気持ちになり、不安になり、暫く居ると健康な人まで病気になってしまいます。それで病気が悪化するケースも多くありました。そのため病人にゆとりの心と、広い心を持ってもらうため、全て個室にしてあるのです」

 一区切り話が終わると、看護婦はカーテンを開けた。

 その瞬間まぶしいくらいの光が入ってきて、2人はまたハッとした。

「奇麗!」

 恭子は窓のそばまで駆け寄った。目の前に神戸の街と神戸の海が飛び込んできたのだ。その上に晴れ渡った青い空がある。つまり下は建物で、真ん中が海、上が空と左右に平行線を引いたように、奇麗に三等分されていた。恭子がずっと海の見える家に住みたいと思っていたことが、変な形だが実現してしまった。彼女はボーと突っ立って、飽きずにいつまでも見ていた。その側で母は、看護婦さんに聞いた。

「入り口にあるイギリスのような庭、奇麗ね」

「あ、ガーデンヒルズって言うんです」

 看護婦は目を輝かしながら言った。

「私もあそこは好きで、よく休憩などに行くんです。そうすると仕事の嫌なこと全て忘れるんです」

「ガーデンヒルズ?」

 母は庭に名前が付いていることに不思議に思った。

「ほかにもありますよ。建物の南側はサクラヒルズ。春になると満開の桜が咲き、その中を歩くと、まるで別世界にいるような感じになれるんです」

 恭子が話しに興味をもち、話しに入ってきた。

「この下が、そうなんですか?」

 恭子が下を見ると、凄い数の桜の木が植えられていて、西の端まで続いているのが見て取れ、気持ちが高鳴ってきた。

「春になるのが楽しみね。でも春になるまでには退院しているから残念!」

 恭子は独り言のようにつぶやいた。興奮してきた恭子は看護婦さんに聞いてみた。

「看護婦さん、ほかには無いの?」

「他にもあるよ。西側には池があるの。そこは鳥がよく来るのでバードヒルズって言っているの。そのほか建物の北側はグリーンヒルズ。緑が覆い茂り、バーベキューやキャンプも出来るようになっているのよ。夏になると楽しいよ」

「夏まで、この病院にいないのが残念です」

 恭子はすねて見せた。

「ガーデンヒルズやサクラヒルズと言った名前が付いているのは癒しの意味を込めて医院長先生が付けたんです」

 看護婦は母の方を向いて喋った。

「看護婦さんは、この仕事してどれくらいなの?」

「2年です。もうすぐ3年目です。これからは恭子さんの担当になったので、よろしくお願いします」

 恭子は看護婦の方を向き、嬉しそうに微笑んだ。看護婦も恭子の方を向きほほえみ返した。

「お姉さん名前なんて言うの?」

「豊田ひろ子」

「お姉さん、て呼んでいい?」

「好きなように呼んでくれたら嬉しいわ」

 そう言って、一礼すると看護婦は部屋から出ていった。

 

 太陽は西の空に傾き、もうすぐ沈もうとしていた。

「お母さん帰るから」

「えー、今日泊まっていってよ」

「お父さんに食事を作ってあげないといけないから。また明日、着替え持ってくるわ」

 恭子はうなずいた。

 

 母が帰ると恭子は1階に下りた。1階の奥にはコンビニがあり、そこで弁当を買い、部屋でTVを見ながら食べた。1人で食事をしていると寂しい気持ちになったが、綺麗な部屋を見ていると、旅行に来て、高級ホテルに泊まっているような気持ちになれ満足した。

 その後、部屋の風呂に入り、頭からシャワーのお湯をかけ石鹸を洗い流すと、肩、胸、腹、尻、足と全身につたい石鹸の泡が流れていった。そして顔にシャワーのお湯を勢いよくかけた。

「はー」

 息をするのを忘れシャワーのお湯を顔にかけた後、息が苦しくなり思いっきり息を吐き出した。そして湯船にゆっくり入った。湯船のお湯で顔を洗うと気分が晴れ、今日一日の出来事が自然に脳裏に湧いてきた。

「ガーデンヒルズ奇麗だった」

 イギリスの庭のような感じで、緑が多く、小径があり、腰くらいの高さの花壇があり、ハーブがあり、ストレスが吹っ飛んだことを思い出す。そしてホテルのようなホールに圧倒された。大きい大理石の柱があり、ふかふかの絨毯あり、ダウンライトの温かい明かりがあり、喫茶店やレストランも沢山あった。明日の朝はどこかの店で食べようと考えると、気持ちがわくわくしてきた。更にまだ行ったことのないサクラヒルズ、バードヒルズ、グリーンヒルズの事を考えると期待で胸が膨らんできた。入院することは嫌どころか楽しみで興奮してきたのだ。

 バスタオルを体に巻き風呂から出ると、外はすっかり暗くなり窓から神戸の夜景が見えた。ネオンがキラキラとして、すごく奇麗だ。今日はパジャマを持ってきてないので着てきた服を着て寝ることにした。その後、椅子に座り、窓のそばでジーと夜景に見とれた。いくら見ても見飽きない。1時間くらい経ったとき我に返り、名残惜しそうにカーテンを閉め、ベットに潜り込んだ。ふかふかのベットの感触が気持ちよく、眠りに上手く導いてくれそうな感じがした。布団にはいると、

「自分はいったい何の病気なんだろう?」

 恭子の脳裏をよぎった。しかし感触のいいベットで寝ていると、次の瞬間には眠りについていた。

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 1缶50〜80円くらいの激安ドリンクを始め、安い商品が多数あります。破損時の返品代引き決算(着払い)もありますので、安心してご利用ください。休日、買い物に行く時間も省け、重い物を運ばなくても、家まで持ってきてくれるのも、嬉しいですよね。




3へつづく