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第一章 黎明(れいめい)
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神戸の地形は山と海が近いため坂が多い。海からなだらかな斜面が続き、山に近付くに従い斜面の角度がきつくなってくる。六甲の麓の少し斜面が急になりかけた所に、小高い丘があり、そこに建っているのが、これから始まる物語の舞台となる六甲ヒルズホスピタルがある。
この病院には、かつて無かったような施設を装備していて、その事に関しては追々紹介していきたいと思うが、神宮恭子はこの施設で奇跡を体験する事となる。
普段の何気ない生活をしていた新宮家に、突然の不運が訪れたことで、この物語は始まった。
神戸は3本の鉄道が並行して走っている。南から阪神電鉄、JR、阪急電鉄だ。阪神新在家駅、JR六甲道駅、阪急六甲駅は一直線上にあり、その阪急六甲駅を、更に上がれば神戸松蔭(しょういん)女子学院、神戸大学を経て、六甲山に行く六甲ケーブル下駅につながる。その阪急を少し上がった所に恭子が家族と住んでいるマンションがあり、築20年にもなるマンションで今では少し古ぼけた感じがし、時代から取り残された感もある。父が24歳、母が22歳の時に結婚し、2年後にこのマンションを購入し18年ここに住んでいる。丁度そのころ恭子は生まれたので、恭子はこのマンションで生まれ育ち、別の家に住んだことがない。
阪急より少し北にあると言うこともあり、人通りも少なく、夜にもなると辺りは静かで直ぐ近くを流れる川のせせらぎが聞こえ、春は桜、秋には紅葉が川の脇で目を楽しませてくれる。恭子の住んでいるマンションの3階のベランダから神戸の景色や海が見えるが、1階に住んでいる恭子の部屋からは、それ程よく見えない。それが恭子にとって残念に思えてならなかった。なぜ両親はもっと高い階の部屋を買わなかったのかと恨だ。だから自分が結婚したときには神戸の海が見える家に住みたいと常日頃思っていた。だが海ははっきり見えないにしても夜景は奇麗に見える。神戸の1000万ドルの夜景がキラキラとまぶしいくらいだ。
部屋も古くなっているので最近家の中をリフォームした。部屋の玄関を入ると廊下を挟み右に1部屋とバス、トイレがあり、左に6畳間が2部屋ある。更に廊下を進むと、キッチン、ダイニング、リビングとあるが、この間の間仕切りを取っ払い、ひとつながりの14畳の広い部屋にした。クロスは張り替えたばかりなので照明で光っていて、天井には8個のダウンライトを付け、電球色が部屋を包むような暖かみのある光を発していた。夜にもなると夜景の光があるといっても外は暗くダウンライトのついた明るい部屋とは相対的だ。また外はまだ冬なので部屋の中にいると暖かさを感じ、明かりのある部屋にいると包まれているような気持ちになれる。
この日は日曜日とあって家族3人は一日、この広い部屋で過ごしていた。ソファーに座りテレビを見たり、話をしたりと笑いがこぼれていた。
恭子は18歳。数日前に高校を卒業したばかりだが、進学するわけでもなく、就職するわけでもない。しかし両親は女の子なので、それ程、気にしていなかった。1年間と言う約束で遊んでいいという事を決め、その後は就職かアルバイトをさせればいいと思っている。1日何もすることがない恭子は友達と遊びに行ったりするくらいで、彼氏もいないし、特に何もする事がないので、1日のほとんどを家で過ごしていた。
恭子は歳の割には幼く見え、ちょっとしたことで喜び、ちょっとしたことで泣き、ちょっとしたことではしゃいだりと喜怒哀楽が激しく、自分の気持ちを素直に表現する純粋な心の持ち主だ。人見知りは多少あっても、誰とでもすぐ仲良くなり、誰とでもわだかまりなく話す。身長は155cmと小柄で、細身で、目はぱっちりとし、美少女と言った感じで、真っ黒な長い髪は背中まで届いていた。
父、恭一は44歳、母、治子は42歳。2人は大恋愛の末、結婚し今年で20年となる。恭子は一人娘と言うこともあり父は溺愛した。父母の仲もよく、いつまでも恋愛中のときの心を忘れないでいる。だから今でも手を繋いだり、キスをすることもある。恭子はそんな仲のいい両親を見て育ったので、家族揃って仲がよく、喧嘩をすることがほとんどなかった。
平日は3人が揃って食事をすることがないので、日曜日は出来るだけそろって食べようと決めていた。食事中も弾んだ会話と笑いが絶えず、母の料理の腕は人並みだが、会話や笑いで1ランクも2ランクも美味しく感じられる。そんな中に突然の不運が襲うとは誰の心にも微塵も感じていなかった。それは夕食のときに突然起こった。
恭子の箸が止まり、表情から笑いが消え、動きが止まった。両親はそれに気づかないわけはなかった。恭一の表情は一瞬にしてひきつった表情に変わり、その次の瞬間に箸を投げ、娘のそばに走り寄ると、娘の胸をさすった。胸の苦しみは直ぐに引いたが、これが新たな苦しみの始まりになろうとは誰も思っていなかった。
治子は最近恭子の様子がおかしい事を悟っていた。
「最近変ね。動悸、息切れがあるし、今日は胸が苦しくなるし。直ぐ治ったからいいけど、お医者さんに見て貰った方がいいんじゃない?何か大変な病気が隠れてるかもしれないし。明日、病院に行ってみよ」
恭子もこの事に少し不安を感じていたので返事は速かった。
「行くんなら新しくできた、この上の病院がいいわ」
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| 2へつづく |
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